「なんであの時、言えなかったんだろう」――。一生後悔すると分かっていたのに、ゲートの向こうへ消える彼女の背中を、僕はただ見送ることしかできませんでした。
22歳の拓海と美咲は、10年来の親友。美咲の海外赴任が決まった空港の夜、拓海は告白を決意したものの、臆病な心に負け、一言も伝えられないまま「永遠の別れ」を迎えてしまいます。絶望と後悔でぐちゃぐちゃに泣く拓海の元に届いたのは、美咲からの意外すぎる『ネタばらし』のLINE。1年間の空白を経て、自分を磨き上げ、再会の瞬間にすべてを賭ける青年の逆転ラブストーリー。
プロローグ:心の奥に居座る「彼女」
中学、高校、大学。僕の青春のすべての場面には、必ず美咲(みさき・22歳)がいた。
「僕たち、本当に腐れ縁だよな」
そう笑ってごまかしてきたけれど、僕の心の中には10年間、一秒たりとも絶えずに「美咲が好きだ」という想いが居座っていた。
けれど、彼女は大学卒業後、海外の企業に就職することを決めた。僕たちの国から数千キロ離れた場所へ。
明日、彼女は日本を去る。僕は、この想いを墓場まで持っていく覚悟でいた。
第1章:空港の雑踏、喉に刺さった「重たい沈黙」
成田空港の出発ロビー。友人たちとハグを交わす美咲の笑顔を見るたびに、僕の心臓は万力で締め上げられるように痛んだ。
僕の順番が来る。
「……元気でな。向こうに行っても、無茶すんなよ」
「うん、拓海もね」
彼女の瞳が、僕を真っ直ぐに見つめている。
(今だ。今「好きだ」と言わなきゃ、もう二度と会えない。今この瞬間、僕が口を開かなければ、この10年間は永遠に報われないまま終わる。一生、後悔するって分かってるだろ!)
喉の奥まで、言葉がせり上がってきている。
「好きだ。行かないでくれ。せめて僕の気持ちだけは受け取ってほしい」
という叫びが、熱を帯びて肺を焦がしている。
だが、土壇場になって「遠距離なんて彼女を縛るだけだ」「もし断られたら、この10年の関係すら壊れる」という卑怯な言い訳が、僕の勇気を泥沼のように飲み込んでいく。
「……じゃあ、行くね」
美咲が、一瞬だけ寂しそうな顔をして、背を向けた。
保安検査場のゲートの向こうへ、彼女の背中が小さくなっていく。
(待て! 美咲! まだ、まだ言ってない……!)
心の中で叫び、一歩踏み出そうとした。だが、足がコンクリートで固められたように動かない。
一生に一度の勝負に、僕はリングに上がることすらできなかったのだ。飛行機のエンジン音が、遠くで僕の意気地のなさを嘲笑っているようだった。
第2章:ぐちゃぐちゃの夜と、悪戯な通知
彼女が発ってから三日。 僕は抜け殻のようになっていた。
暗い部屋で一人、天井を見つめては、空港でのあの数分間を100回、1000回とリプレイする。
「もしあの時、腕を掴んで『好きだ』と言えていたら」
一言の勇気が出せないという理由だけで、10年分の想いをゴミ箱に捨ててしまった自分への嫌悪感。
そんな深夜。枕元でスマートフォンが震えた。美咲からのLINEだ。
『拓海、着いたよ。こっちは空が広くてびっくり』
当たり障りのない近況報告。
でも、その後に届いた一文に、僕は息が止まった。
『ところでさ。……空港の時、なんで何も言ってくれなかったの?(笑)』
イタズラっぽく、冗談めかした絵文字。
でも、その問いかけは、僕の隠し続けてきた心臓を正確に射抜いた。
彼女は気づいていた。僕が何かを言おうとして、結局言えなかったあの情けない顔を。
「…………っ、あああああぁぁぁ!」
暗い部屋で、僕は声を上げて泣いた。
情けなくて、悔しくて、もう取り返しがつかない。彼女はあんな風に、僕に「出口」を作ってくれていたのに。僕は最後まで、最低な臆病者だった。
画面が涙で滲み、彼女のアイコンがぼやけていく。
「ごめん、美咲……」という独り言が、虚しく壁に跳ね返った。
第3章:逆転のメッセージと「1年」の約束
泣き疲れて、スマホを握ったまま床で眠ってしまった翌朝。また美咲からLINEが届いていた。
『拓海、あんた本当にだらしないね。……みんなから聞いたよ。空港で泣きそうな顔してたって(笑)。 あのね、本当のこと言うね。今回の海外、実は1年限定の研修なの。私、1年後には日本に帰るよ。あんたがあまりにも言わないから、私から言うね。 ……私さ、拓海のこと、ずっと好きだったよ』
時間が、止まった。
心臓の音が、耳元で鐘のように響き渡る。
『付き合って。ただ、1年だけ待っててよ。帰ってきたら、今度はちゃんと、拓海の口から返事聞かせてね』
お茶目で、どこまでも美咲らしい、最強の「逆転満塁ホームラン」だった。
あんなに永遠の別れだと思って絶望していた時間は、彼女の優しさで、希望に満ちた「待ち合わせ」に変わった。
第4章:空白の365日、僕の「修行期間」
その日から、僕の生活は一変した。
「だらしない」と言われた自分が、1年後に彼女を迎えに行くとき、胸を張れる男になっていたかったからだ。
時差があるから、リアルタイムの会話は難しい。だから僕たちの命綱は、途切れることのないLINEのトーク画面だった。
朝、僕が起きると、彼女からの「おやすみ」と、その日食べた現地の変な色のサンドイッチの写真が届いている。
夜、僕が寝る前には、彼女への「おはよう」と、僕が練習で作った少し焦げた野菜炒めの写真を送る。
『拓海、その野菜炒め、火が強すぎ(笑)』
『うるさいな、これでも味はマシになったんだぞ』
画面越しに交わされる他愛ない言葉の一つひとつが、数千キロの距離をゼロにした。この文字の羅列があるだけで、僕は一人じゃなかった。
僕は彼女に笑われないよう、ジムに通い、仕事の資格取得のために猛勉強した。疲れてスマホを投げ出したくなる夜も、通知音が鳴れば背筋が伸びた。
「あと、200日」「あと、100日」
カレンダーに×印をつけるたび、僕は少しずつ「だらしない自分」を脱ぎ捨てていった。
10年間、ただ「好きだ」という気持ちを抱えて停滞していた僕が、初めて美咲という光に向かって、文字通り全力で走っていた。
この1年は、離れている時間ではなく、彼女にふさわしい男になるための、僕にとっての「聖域」だった。
エピローグ:1年後の「待ち合わせ」
1年後。再び、成田空港。
僕は、1年前とは全く違う表情で、到着ロビーの出口を見つめていた。自動ドアが開き、少し日焼けして、より美しくなった美咲が現れる。
「拓海ー!」
彼女が駆け寄ってくる。僕は今度は、一歩も引かなかった。
「美咲! おかえり!」
抱きしめた彼女の体温は、僕が10年間ずっと夢見ていた、そのままの温かさだった。
「……ねえ、返事は?」
腕の中で、美咲が少し悪戯っぽく僕を見上げる。
僕は今度は、喉を詰まらせたりしなかった。
「大好きだ。美咲。一生、離さない。……僕と付き合ってください」
あの日、空港で絶望した僕は、本当は運に恵まれていた。
でも、こんな奇跡みたいな逆転劇が起きるのは、物語の中だけかもしれない。 本当は、あんな後悔はしないに越したことはないんだ。
もしあなたが、今、大切な誰かに伝えたい言葉があるなら。 僕みたいにぐちゃぐちゃに泣く前に、その「きっかけ」を自分から作りに行ってほしい。
新しい自分へ。 僕は、世界で一番大切な彼女の手を握り、二人の「これから」へと歩き出す。
「一生後悔する」と分かっていても、あと一歩が踏み出せない。そんな経験はありませんか?でも、現実はドラマのように待ってはくれません。大切な言葉を伝えるための「きっかけ」は、待つものではなく、自ら作るものです。あなたの勇気を受け止めてくれる人が、きっとどこかにいます。新しい自分へ、後悔しない恋を今、始めましょう。

