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9歳年下の彼と、義母からの手紙。―「ごめんなさい」から始まった私たちの愛

年下の彼のために深夜まで家事やサポートをこなし、彼を一人前の男へと育て上げるシングルマザーの献身的な姿 シングルマザーの恋愛ストーリー

「麻衣さん、結婚しよう」

25歳の海斗(仮名)が真っ直ぐな瞳でそう言ったとき、私の胸に浮かんだのは喜びよりも先に、「申し訳なさ」だった。

私は麻衣(仮名)、34歳。2歳になる息子の湊(仮名)を育てるシングルマザーだ。

彼は9歳も年下で、初婚、未来がある。

(私なんかが、彼の人生を縛っていいわけがない)

その呪いのような思いは、1年前のあの日、決定的なものになっていた。

 

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第1章:閉ざされた玄関と、土下座

1年前。海斗の実家へ挨拶に行った日。私たちは、リビングに通されることさえなかった。

玄関先で、彼のご両親は冷たく言い放った。

「お引き取りください。息子はまだ24歳です。いきなり父親になれるわけがない」
「あなたもです。自分の年齢とお立場を、よく考えてください」

その言葉は、私が毎晩自分自身に投げかけていた言葉そのものだった。

隣で土下座をして「麻衣さんは素晴らしい人なんだ!」

と叫ぶ海斗の背中を見ながら、私はただ涙をこらえ、「申し訳ありませんでした」と頭を下げるしかなかった。

帰り道、泣きじゃくる海斗の手を握りながら、私は心に決めた。

(いつか、彼が私を嫌いになって離れていくその日まで……せめて彼を、一人前のいい男に育て上げよう)

それが、身勝手な私の、彼への罪滅ぼしだった。

 

第2章:愛するがゆえの「鬼」

東京に戻ってからの私は、海斗に対して少し厳しくなった。

彼の部屋は、足の踏み場もないゴミ屋敷で、食事は毎食コンビニ弁当。これでは、ご両親が心配するのも無理はない。

「海斗、脱いだ靴は揃えて。そういうだらしなさは、仕事に出るよ」
「コンビニ弁当は禁止。今日から私が作り置きを持ってくるから、自炊しなさい」

仕事の愚痴を言えば、「それは相手の立場に立ってないからよ」と諭した。

まるで母親みたいだ、と自分でも思う。でも、彼には幸せになってほしかった。

もし私と別れて、もっと若くてふさわしい人と一緒になったとき、「海斗くんって素敵な人ね」と言われるように。私の献身は、愛なのか、別れの準備なのか、自分でも分からなくなっていた。

けれど、海斗は逃げなかった。

「麻衣の言う通りだ。俺、変わるよ」

彼は素直に吸収し、驚くほどのスピードで成長していった。

よれたTシャツではなくパリッとしたシャツを着こなし、顔つきは精悍になり、会社でも評価され始めた。

私の自慢の彼。でも、素敵になればなるほど、私との釣り合いが取れなくなっていくような気がして、怖かった。

 

第3章:突然の呼び出しと、走馬灯

ある土曜日の午後。湊と公園で遊んでいた私のスマホが鳴った。

海斗からだ。

「ま、麻衣さん……どうしよう。親父とお袋が、いきなり東京に来た」

「えっ!?」

「今、俺の部屋にいる。……麻衣さんに会いたいって言ってる。今夜、食事でもどうかって」

血の気が引いた。怒られる。

まだ別れていなかったのかと、罵倒される。あるいは、見違えるようになった息子を見て、「もうあなたは用済みだ」と宣告されるのかもしれない。

「……わかった。行くね」

湊を実家に預け、震える足で指定されたレストランへ向かった。タクシーの窓に映る自分は、1年前よりも少し老けて見えた。

 

第4章:予想外の涙

個室の扉を開ける手が震える。中には、緊張した面持ちの海斗と、1年前と同じ厳しい表情のご両親が座っていた。

「……ご無沙汰しております」

私が深く頭を下げると、沈黙が落ちた。心臓が早鐘を打つ。

「……座りなさい」

お父様の低い声。

私は縮こまるように席についた。

すると、真っ先に口を開いたのは、お母様だった。

「あなた、だったのね」

「……はい?」

「あの子の部屋を見て、驚きました。あんなにゴミ溜めだった部屋が、塵ひとつなく片付いていて。冷蔵庫には栄養バランスの良い常備菜が並んでいて……。それに何より、あの子の顔」

お母様は、隣の海斗を見て、目を細めた。

「昔のような甘えた顔じゃない。自分の足で立ち、自信に満ちた、いい男の顔をしていました。……海斗が言ったの。『全部、麻衣さんが教えてくれたんだ』って」

お母様の声が震え始めた。

「親の私たちが何回言っても聞かなかったのに。……あなたが、あの子を変えてくれたのね」

「あの……私は、ただ……」

「ありがとう。大事な息子を、こんなに立派にしてくれて。……誤解していたわ。あなたが、あの子を支えてくれていたのね」

「ありがとう」 その一言を聞いた瞬間、私の目から涙が溢れ出した。

否定されると思っていた。奪ったと責められると思っていた。でも、私の1年間の必死の思いは、ちゃんと届いていたのだ。

その夜、結婚の話こそ出なかったが、お父様が海斗にお酌をする雰囲気は、穏やかで温かかった。

 

第5章:東京駅、涙の崩壊

2日後の日曜日。ご両親が帰る日。

東京駅の改札前で、お母様が海斗に何かを手渡しているのが見えた。そして、海斗の肩を叩き、何かを告げている。

その直後、海斗がその場に崩れ落ちるように泣き出した。

私は慌てて駆け寄った。

「海斗!? どうしたの?」

海斗はぐしゃぐしゃの顔で、私を見た。

「お袋が……『麻衣さんを逃したら、一生後悔するよ。絶対に幸せにしなさい』って……」

その言葉に、私も胸が詰まる。

「あと、これ。麻衣さんにって」 海斗から渡されたのは、一通の手紙だった。

私は震える手で封を開けた。

エピローグ:母からの手紙

麻衣さんへ

突然の訪問で驚かせてしまい、ごめんなさい。 そして1年前、あなたを玄関先で追い返した非礼を、どうか許してください。 あの日、私は母親として嫉妬していました。9歳も年上の、しかもお子さんのいる女性に、手塩にかけた息子を奪われるのが怖かったのです。

でも、今回あの子の暮らしぶりを見て、そしてあの子の言葉を聞いて、私が間違っていたと痛感しました。 海斗は言いました。「俺が仕事で辛い時、麻衣さんは自分のことみたいに怒って、励ましてくれるんだ」と。 あの子の部屋の綺麗さも、健康的な顔色も、すべてあなたの愛情の賜物ですね。

私が25年かけても教えられなかった「生きる力」と「他人を思う心」を、あなたはたった1年で彼に授けてくれました。 悔しいけれど、母親の私の完敗です。 今の海斗なら、きっとあなたと湊くんを守っていけるはずです。

あの子を、いい男にしてくれてありがとう。 これからは、私たちがあなたと湊くんの力になります。 今度帰ってくるときは、ぜひ湊くんも一緒に。孫におもちゃを買って待っています。

追伸
海斗は格好つけていますが、中身はまだまだ子どもです。 どうか、あなたのその深い愛情で、これからもあの子の手を引いてあげてください。 二人の幸せを、心から祈っています。

海斗の母より

「……う、ううっ……」

読み終えた私は、手紙を胸に抱きしめ、人目も憚らずに泣き崩れた。

ずっと、許されたかった。

「私でいいのか」と悩み続けた日々に、一番欲しかった答えを、お母様がくれた。

「麻衣、帰ろう。……湊くんが待ってる」

海斗が、私の肩を抱き寄せる。その手は、1年前よりもずっと大きく、頼もしくなっていた。

「うん……帰ろう、私たちの家に」

雑踏の中、私たちは強く手を繋いだ。

もう、迷わない。この手は二度と離さない。

9歳差の壁も、世間体も、全部乗り越えてみせる。

私たちが積み重ねた愛は、本物だったのだから。

 

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