「可愛げがない」「強すぎる」――社会で戦えば戦うほど、恋が遠ざかっていく気がしませんか?
34歳の真由は、外資系コンサルとして年収1000万超を稼ぐエリート。しかし、そのスペックが壁となり、男性からは敬遠され、独りで生きる覚悟を決めかけていました。そんな彼女がアプリで出会ったのは、自分とは住む世界が違う、穏やかなパン屋の青年。完璧であることを求められない場所で、彼女が初めて見つけた「素顔の自分」とは。
プロローグ:戦い続ける私の、隠しきれない虚無感
「真由さんは、一人でも生きていけそうだよね」
何度、この言葉を投げかけられただろう。 34歳、外資系コンサルタント。MBAを取得し、若くしてマネージャーに昇進した。年収は同年代の男性を軽く凌駕する。
けれど、その「強さ」は、恋愛市場ではいつも足かせになった。デートの最後に年収やキャリアの話になると、男性の顔から熱が引き、敬語が混じり始める。
「強すぎる女は、可愛げがない」
「自分より稼いでいる女は、プライドを傷つけられる」
そんな言葉の刃を浴び続けるうちに、私はいつの間にか、自分を守るために完璧な「エリート」の鎧を纏うようになっていた。隙を見せず、論理的に話し、感情を押し殺す。
でも、深夜のタワーマンションの自室でワインを飲むとき、ふと思う。
「私はただ、一人の人間として、誰かに『お疲れ様』って抱きしめてほしいだけなのに」
第1章:スペックという名の「検閲」
マッチングアプリを始めた時、私は迷った。キャリアを隠すべきか。 けれど、自分を偽って出会っても意味がないと、私はMBA保持、年収1000万以上と正直に記載した。
結果は、予想通りだった。 マッチングするのは、私の年収を当てにする「ヒモ体質」か、あるいは「女のくせに」とマウントを取ってくる自信過剰な男たちばかり。
「やっぱり、私に合う人なんていないんだ」
諦めてアプリを退会しようとしたその夜、一通のメッセージが届いた。
「真由さん。プロフィールを読んで、あなたの『芯の強さ』に惹かれました。僕は地方で小さなパン屋をやっています。住む世界は違うかもしれないけれど、一度お話ししてみませんか」
智也(ともや・仮名)、32歳。 年収も学歴も、私とは正反対の世界にいる人。でも、彼の送ってきたパンの写真は、どれも驚くほど優しくて、温かそうだった。
第2章:無敵の城壁を越えた、焼きたての香り
初めて会った智也さんは、私の年収を聞いても
「へぇ、かっこいいですね!」
と、まるでスポーツの新記録を聞いた時のような純粋な反応を見せた。
「真由さんがどれだけ努力してその場所まで行ったか、僕には想像もつきません。でも、今の真由さんは、少しだけお腹が空いている顔をしていますよ」
彼はそう言って、カバンから試作のクロワッサンを取り出した。
都内の高級レストランのような完璧なサービスはない。けれど、彼が差し出してくれたパンは、私がこれまでの人生で食べてきたどんなフルコースよりも、心に染みた。
彼と一緒にいると、私は「コンサルタントの真由」という無敵のロールモデルを演じる必要がなかった。
論理的な正解を出す必要もなく、誰かと競う必要もない。
「智也さんは、私といて劣等感とか、抱かないんですか?」
思わず聞いた私に、彼は笑って答えた。
「どうして? 僕はパンを焼くプロで、真由さんはビジネスのプロ。お互いにすごいね、でいいじゃないですか」
第3章:初めて流した、プロの涙
ある大きなプロジェクトが頓挫し、部下からも上司からも責められ、私が限界を迎えていた夜。
私は智也さんの店を訪ねた。閉店後の店内に、香ばしい香りが漂っている。
彼の顔を見た瞬間、張り詰めていた「完璧という名のプログラム」が、ガラガラと音を立てて崩れ去った。
「私……もう、強くいられない」
ボロボロとこぼれる涙。MBAを持っていても、年収がいくらあっても、この孤独と疲労を癒やす計算式は、どこにも用意されていなかった。
智也さんは何も言わず、ただ小麦粉のついた手で、私の背中を優しく撫で続けた。
「いいんだよ、真由さん。外でどれだけ戦ってきても、ここだけは君の安全基地だから。武装を解いて、ただの女の子に戻っていいんだよ」
その夜、私は初めて、自分を縛り付けていた「成功者の定義」を脱ぎ捨てて眠ることができた。
エピローグ:本当の「軌跡」
あれから一年。 私の生活は、劇的に変わった。 仕事は相変わらずハードだけれど、今はもう、自分の価値を証明するために牙を剥いて戦う必要はないと思えるようになった。
なぜなら、家に帰れば「仕事ができる真由も、不器用な真由も、全部大好きだ」と言ってくれる夫がいるから。
マッチングアプリ。それは、自分に似たスペックの人を探す場所だと思っていた。
でも、違った。それは、自分が必死に積み上げてきた「数字や肩書きという名の城壁」を、たった一吹きで笑い飛ばし、その奥に隠れていた「本当の自分」を救い出してくれる人に出会うための場所だった。

