「なんでウチは、いつも『いい奴』で終わるの!?」――やんちゃな性格が災いして、恋愛から遠ざかっていませんか?
26歳のフリーター、美咲。子どもの頃からの活発な性格が災いして、周りにはいつもやんちゃな仲間ばかり。気づけば「ツッコミ番長」として君臨し、一度も彼氏ができないまま26年。このまま男を知らず、ひとりで年老いていくのかと震えていた彼女が、一念発起して未知の世界へ飛び込みます。
これは、自分の「やんちゃな過去」も「可愛くない語彙力」も、すべてを「一生懸命で魅力的だ」と愛おしんでくれる男性に出会い、人生最高の「初陣(初体験)」を迎えるまでの、笑いと涙の全力ラブストーリーです。
プロローグ:絶滅危惧種の「姐さん」26歳、焦燥に震える
「はぁ? 婚約? お前、あの『真冬の噴水に誰が一番長く浸かってられるか勝負しよーぜ』とか言ってたバカ結衣だろ!? 誰がそんな奴の嫁になんだよ、返品不可だぞ!」
ファミレスのドリンクバーの横で私はスマホの画面に毒を吐いていた。LINEの通知には、かつての「悪友」結衣のウエディングドレス姿。
「るせーよ(笑)美咲も早く見つけなよ、いい加減独りは寂しいべ?」
その返信に、私は持っていたメロンソーダを吹き出しそうになった。
「『べ?』じゃねーよ。幸せボケしてキャラ崩壊してんじゃねーよ」
美咲(仮名・26歳)は、絶望していた。 子どもの頃から、正義感だけは無駄に強かった。いじめられている子がいれば、迷わずランドセルを投げ捨てて相手の男子を追いかけ回し、転校生がいれば「今日からお前はウチらのマブだ!」と強引に仲間に引き入れた。 その活発さが中学、高校と上がるにつれ、なぜか「磁石」のように、周囲のやんちゃな連中を引き寄せてしまった。
気づけば私の周りには、金髪、変なジャージ、夜中のコンビニに集まるのが日課の「元気すぎる」仲間ばかり。私もその中心で、「おい、そこ道塞いでんじゃねーよ!」「タバコは成人してからにしろボケ!」と、ツッコミという名の愛の鉄拳(主に口撃)を振り回し続けてきた。
結果。26歳、フリーター。彼氏いない歴、=実年齢。
男友達は、腐るほどいる。地元の同窓会に行けば「美咲さーん! 姐さん変わんねーな!」と野太い声で囲まれる。でも、その後に続く言葉は決まってこれだ。
「お前といると、マジで男友達と飲んでる気分になるわー」
「美咲みたいな、気合入った女が彼女なら、一生退屈しねーだろうな(笑)。まあ俺は、もっとこう……守ってやりたくなるような可愛い子がタイプだけど」
「……はぁぁぁぁぁ!?」
心の中の叫びが、ドリンクバーの氷を砕きそうになる。
(守ってやりたくなるような可愛い子? ウチだって、腹減ったら泣くし、虫が出たらちょっとはビビるぞ! 私がこの26年間、どれだけ「ツッコミ役」という過酷なポジションで、みんなの秩序を守ってきたと思ってるんだ!)
「決めた。ウチ、アプリやる。姐さん、卒業してやるよ……!」
その場で、これまでの武勇伝をすべて封印し、マッチングアプリの扉を叩いた。
第1章:プロフィールの「擬態」と、隠しきれない業
「趣味:カフェ巡り、ヨガ(体験1回だけ行った)、お菓子作り(小学校の調理実習でのみ)」
画面に向かって、私は邪悪な笑みを浮かべていた。これだ。これが世の男性たちが求める「守りたくなる女子」のテンプレだ。
写真は、地元の仲間が撮った「喧嘩を仲裁している時の目つきが鋭い私」ではなく、アプリのフィルターでこれでもかと美白し、角度を詐称した奇跡の一枚。
「これなら、清楚な王子様が釣れるはず……」
しかし、現実は甘くなかった。 アプリのメッセージ機能は、私の「やんちゃな業」を容赦なく引き摺り出す。
相手「はじめまして! 写真、すごく可愛いですね。お仕事は何をされてるんですか?」
私(心の声:いきなり可愛いとか抜かすなよ、チャラいんだよ!)
私「ありがとうございます。事務のバイトとか、いろいろです」
相手「事務! 真面目なんですね。休日は何をしてるんですか?」
私「家でゆっくりしたり……あ、ドライブも好きです(夜中のラーメン含む)」
相手「いいですね! 今度、僕の車で湘南とか行きませんか?」
私「……は? 初対面で車? 攫う気か? 警察呼ぶぞ?」
気づくと、ツッコミが暴走している。
せっかくの王子様候補も、私の「疑り深すぎる姐さんモード」に怯え、次々とフェードアウトしていった。
私は確信した。私の中のヤンキー魂が、清楚への擬態を全力で拒否している。
そんな時、一通のメッセージが届いた。
「美咲さんの写真、すごく一生懸命『可愛く撮ろう』としてる感じがして、なんだかほっこりしました。無理してませんか?」
「……っはぁ!? 誰だこいつ! 上から目線かよ!」
憤慨して相手のプロフィールを見る。 健太(けんた・仮名)、27歳。都内の小さなカフェで店長をしているらしい。
穏やかな笑顔の写真。プロフィール文には「コーヒーの香りと、静かな時間が好きです」なんて、私のこれまでの人生には存在しなかった単語が並んでいる。
「この野郎……ウチの必死の美白を笑いやがって。一発、言い返してやる」
それが、私と健太の、運命の始まりだった。
第2章:計算外の「笑い」と、カフェ店長の包容力
私は彼を論破するつもりで、怒涛の勢いでメッセージを返した。
「無理なんかしてねーよ! これが素の私だ! お前に何がわかるんだ!」 (あ、しまった。「ねーよ」とか言っちゃった……)
終わった。清楚女子計画、完全終了。
しかし、健太からの返信は予想外のものだった。
「あはは! 勢いがあっていいですね。今の言葉の方が、写真の100倍魅力的ですよ。美咲さんって、本当はすごく面白い人でしょ?」
「……え?」 26年間、私のツッコミや勢いは、いつも「うるさい」「怖い」「いい奴」というカテゴリーに分類されてきた。それを「魅力的」なんて言った男は、健太が初めてだった。
そこから、私たちの奇妙なやり取りが始まった。
私がつい「姐さん」らしい毒舌を吐くと、彼はそれを「切れ味がいい」と喜び、私が失敗して落ち込むと、「美咲さんなら、次こそは返り討ちにできますよ」と、私の好戦的な性格に合わせた励ましをくれる。
そして一ヶ月後。ついに私たちは会うことになった。 待ち合わせ場所は、彼が働く店ではなく、表参道のオシャレなカフェ。
私は、気合を入れて新調した(でも、裾を踏みそうで怖い)ロングスカートを穿き、慣れないヒールでよろめきながら現れた。
「美咲さん?」
振り返ると、そこには写真以上に優しそうな、でもどこか芯の強さを感じさせる健太が立っていた。
「……おう。……あ、お、おはようございます。健太さん」 (噛んだ! しかも『おう』って言っちゃったよ!)
彼は私を見て、数秒間固まった。そして、お腹を抱えて笑い出した。
「ひどいな……あんなに勇ましいメッセージ送ってくる人が、こんなに顔を真っ赤にしてフリフリのスカート穿いてくるなんて。反則ですよ、それ」
「……っるせーよ! これ、三時間もかけて選んだんだよ!」
私のツッコミがカフェに響く。
でも、彼の瞳は、かつての男友達のような「面白がる目」ではなく、もっと温かくて、私という人間を丸ごと包み込むような、深い優しさに満ちていた。
第3章:姐さんの鎧が剥がれる、衝撃の「可愛い」
デートは、私の人生で最も「非効率」で、最も「贅沢」な時間だった。
いつもなら「結論から言えよ!」と急かしたくなるような、たわいもない会話。
「あの雲、ホイップクリームみたいですね」なんて健太が言えば、普段の私なら「食い意地張ってんなボケ!」と一蹴するところだ。
でも、その時の私は、「……あ、……そう、っすね」 と、借りてきた猫のように頷くことしかできなかった。
パフェを食べている時、口元にクリームがついた私を見て、健太が自然に指でそれを拭った。
「美咲さん、そういうところ、本当に可愛いですよね」
「………………は?」
思考が停止した。
今、この男は何を言った? 可愛い? 姐さん、ヤッさん、いい奴、ツッコミ番長。そんな称号ばかりを集めてきた私に、最も縁遠い単語が、彼の口から羽が生えたように飛び出した。
「な、ななな……何言ってんだよ! 喧嘩売ってんのか!? 照れ隠しで殴るぞ!」
「あはは、殴ってもいいですよ。でも、可愛いのは事実だから」
私は、生まれて初めて知った。 「可愛い」という言葉は、物理的な攻撃よりも、はるかに私の心臓を激しく打ち抜く武器になるのだということを。
それから、私たちは頻繁に会うようになり、健太は私の過去についても聞いてくれた。
中高生の頃、夜の公園で仲間とたむろしていたこと。誰かが警察に捕まりそうになったら、私が先頭に立って説教を食らっていたこと。
「美咲さんは、自分を犠牲にしてまで仲間を守りたかったんですね。本当は誰よりも情に厚くて、優しい。そんなあなたが、僕は好きです」
その言葉に、私は生まれて初めて、誰にも見せたことのない「弱さ」を彼に見せたくなった。
「……私、ずっと怖かったんだ。強くないと、誰にも認めてもらえないと思ってた。姐さんって呼ばれてないと、居場所がなくなる気がして……」
初めて、私の目から「根性」ではない、ただの「涙」が溢れた。
健太は、私の頭を優しく撫でてくれた。 「もう、戦わなくていいよ、美咲」
第4章:姐さんの「初陣」、想定外の甘い夜
付き合い始めて半年。季節は巡り、私たちは健太の部屋で過ごすことが多くなった。そして、ついにその夜がやってきた。
正直に言おう。私は、怖かった。
これまでの26年間、男連中と肩を組んで夜通し遊んできたけれど、その一線を越えたことは一度もなかった。「姐さん」という役割が、私の女としての自覚を完全に封印していたのだ。
ベッドに並んで座った時、私の心拍数はかつての数々の修羅場よりも激しく打ち鳴らされていた。
「……あの、健太さん。私、こういうの……その、初陣だから。気合は入ってるけど、作法とか全然わかんねーから。……あ、下手くそだったら、ケツ叩いていいからな!」
緊張のあまり、私の口からは最悪の「元ヤン風言い回し」が飛び出した。
健太は、一瞬呆然とした後、愛おしそうに私を抱き寄せた。
「初陣って……美咲さんらしいな。作法なんていらないよ。僕がゆっくり、美咲さんの全部を教えてあげるから」
彼の唇が重なり、呼吸が混ざり合う。 私は、自分の体が火を噴くように熱いのを感じた。
「……ちょ、まっ……健太さん、手、手が……! お前、それ反則! 警告1回だぞ!」
「美咲、うるさい。……静かに」
彼が私の服に手をかけたとき、私は思わず彼の腕をガシッと掴んだ。
「……お、お手柔らかに頼むぜ。私のこと、嫌いにならないでくれよ……?」
その弱々しい言葉に、健太は私を深く、深く抱きしめた。
肌と肌が触れ合う。 諦めていた、本物の「体温」。 彼の指先が、私のコンプレックスだった「ツッコミ用の鋭い目」を優しく閉じさせ、私の熱を孕んだ体に触れていく。
「……あ、っ……健太さん、健太さん……」
声が、震える。ツッコミの言葉が出てこない。
自分の中に彼を受け入れた瞬間、私はかつて経験したことのない衝撃と、圧倒的な「安心感」に包まれた。
(ああ、私、生きててよかった。姐さんとして生きてきた時間も、全部この瞬間に繋がってたんだ)
私は、泣いていた。
「……っ、おい、健太……お前、最高かよ。……大好きだ、この野郎……っ」
元ヤン丸出しの告白。
でも、それが私の精一杯の愛の言葉だった。健太は私の耳元で、囁いた。
「僕もだよ、美咲。……愛してる」
その夜、私はようやく「姐さん」という長い長い任務から、解放されたのだった。
エピローグ:ツッコミも、愛の証
あれから1年。私は今、健太と一緒に新しいカフェをオープンするための準備に追われている。
フリーターだった私はもういない。彼と一緒に未来を作るための、一人の「プロ」になろうとしている。
「おい健太! この豆、ちょっと焙煎しすぎだろ! 客を眠らせない気か!」
「あはは、美咲のツッコミは、朝のコーヒーより目が覚めるね」
私のツッコミは、今でも健在だ。でも、それは誰かを威圧するための武器ではなく、大好きな彼との日常を彩る、最高の「愛の形」に変わった。
マッチングアプリ。それは、清楚で可愛らしい自分を「演じる」場所だと思っていた。でも、違った。それは、自分が必死に隠してきた「やんちゃで、うるさくて、でも誰よりも一生懸命な私」を、丸ごと「可愛い」と笑ってくれる、たった一人の理解者に出会うための場所だった。
誰かのために突っ走ってばかりだった私の手を引いて、二人で歩く道の素晴らしさを教えてくれた人。 私は今、最高の私として、この幸せの中にいます。

