「最悪の出会い」から始まる恋なんて、ドラマの中だけの話だと思っていました。でも、本当にそれが「運命」だったら?
29歳の春野咲は、仕事帰りの豪雨の中、ぶっきらぼうなイケメン・橘と最悪の出会いを果たす。「あの男だけは絶対ない」と誓った数日後、会社の一大プレゼンで、スーツを着こなした完璧な「彼」と再会する。仕事ができるギャップと、ふとした優しさに惹かれていく咲。しかし、彼女の心は「最悪の第一印象」と「恋心」の間で大混乱! コミカルな心のツッコミと共に、運命を確信していく、笑いと感動のオフィス・ラブストーリー。
プロローグ:人生最悪の豪雨と、最悪のイケメン
29歳の私、春野咲(はるのさき)は、その日、人生最悪の豪雨に見舞われていた。
「マジかよ、今日に限って置き傘なしって……!」
営業職として働く私にとって、濡れたスーツは死を意味する。土砂降りの雨の中、会社から最寄りのカフェまで必死に走る。全身ずぶ濡れ、髪はハリネズミ。お気に入りのパンプスは水没。
「くっそー! もう、カフェで一番いいケーキ全部食ってやる!」
荒ぶる心で駆け込んだカフェは、まさかの満席。
「嘘でしょ……雨宿り難民、多すぎ!」
絶望の淵で店内を見回すと、窓際の二人掛けテーブルに、空席を発見。
しかし、その席の向かいには、とんでもなく顔の良い男が座っていた。 黒髪で、シュッとした顔立ち。高級そうなスーツをさらりと着こなしている。 だが、その表情は「近寄るなオーラ」全開で、眉間に深いシワを寄せ、スマホを睨みつけている。
(あのイケメン、絶対性格悪いタイプだ……! しかし背に腹は代えられぬ!)
意を決して、テーブルに近づく。
「あの、すみません……相席、させて頂いてもよろしいでしょうか?」
超絶丁寧語で、最大限の愛想笑いを浮かべる私。
男性は、スマホから目を離さず、舌打ちするような低い声で言った。
「……座れば」
(はぁ!? 座ればだと!? ちょっと待て、あんた一体何様だよ! そこそこ美人な私が頼んでやってるんだぞ! いや、今ずぶ濡れだから美人オーラはゼロだけどさ!)
憤慨(ふんがい)しながらも、私はそっと椅子に腰掛けた。私の席は、彼の隣の壁側。視界の端で彼の横顔が見える。
濡れた髪をタオルで拭いていると、彼が突然、ボソッと呟いた。
「……そこ、俺の席なんだけど」
(は!? あんたの席って、あんたが座ってる方じゃないの!? 何言ってんのコイツ! いやいやいや、こっちの席は空いてたよね!?)
私が固まっていると、彼はさらに続けた。
「……じゃなくて、俺の席は窓際だ。お前が座ってるのは、向かい側だろうが」
(……え? あ、そっち? そっちの意味ね? てか、言い方! 怖すぎんだろ! 無愛想か! 無愛想イケメンか!)
その日、私の脳裏に焼き付いたのは、彼の完璧な横顔と、その口から放たれた「座れば」「俺の席なんだが」という、史上最低なセリフだった。
(あの男だけは、絶対にない。むしろ道端で会ったら全力で逃げるレベル)
それが、彼の第一印象だった。そして、彼は私の人生から完全に消え去るはずだった。
第1章:運命の悪戯? 最悪の再会は、最悪のプレゼン会場で
数日後。会社で一大プロジェクトが動いていた。私たちが提案する新サービスのコンペで、競合他社を出し抜き、是が非でも勝ち取りたい案件だ。
今日は、その大口取引先の役員への最終プレゼン。 部長と共に、私は社運を賭けた資料を抱え、取引先の会議室へ向かっていた。
「咲、頼んだぞ。この案件取れたら、昇進も夢じゃないからな!」
「はい! お任せください!」
気合十分、戦闘態勢の私。
会議室のドアが開き、取引先の役員と、今回の担当者が入室する。
(よし、部長! 私は部長の背中に隠れて、最初に担当者の顔をチェックする作戦で!)
部長が挨拶を始めた。
「本日はお忙しい中、誠にありがとうございます。株式会社〇〇、営業部の田中です。本日は、弊社の春野がプレゼンを担当させていただきます」
「株式会社△△、営業部の橘(たちばな)です。本日はよろしくお願いいたします」
その声を聞いた瞬間、私の全身の血液が凍りついた。
(いや、まさか。そんな偶然、少女漫画の世界でもねーだろ!)
部長の影から恐る恐る顔を出すと、そこにいたのは……。あの日のカフェで「座れば」と言い放った、眉間にシワ寄せイケメンだった。
完璧に着こなしたネイビースーツ。キリッとした表情で、役員に何か説明している。
(嘘だろ……なんであんたがここにいんの!? てか、なんでこんなキリッとした顔してんの!? あんた、あの時スマホと睨めっこして「座れば」しか言わなかったじゃん! 絶対裏の顔だ! サイコパスだ!)
彼は一瞬、私のことを見た。その瞳は、何かを認識したような、いや、完全に無視されたような、なんとも言えない表情だった。
(おい無視かよ! あんな最悪な出会い方したんだから、せめて「あ……」くらいの反応しろよ! 鈍感か! いや、もしかして私のこと覚えてねーのか!? ずぶ濡れの醜態を見せたのに!?)
プレゼン中も、私は橘さんの視線が気になって仕方がなかった。彼は時折、フッと微かに笑みを浮かべる。
(うわ、笑った! 絶対、私のプレゼン内容が陳腐すぎてバカにしてる! 「こんなレベルでよく営業やってんな」とか思ってんだろ! ムキぃー!)
そんな私の内心とは裏腹に、プレゼンは無事に終了。役員も好感触だ。
(……いや、待てよ。橘さん、笑ってたのって、もしかして私の方じゃなくて、役員が言ったジョークに対して、だったりする……? しかも、途中、私の方見て頷いてくれてたような……?)
一瞬よぎる淡い期待を、
「いやいや、調子に乗るな私。あの男は敵だ。イケメンは顔が良いだけで、私を欺こうとしている」
と即座に打ち消す。
第2章:隣の席の「推し」は、私の敵(ライバル)だった
その後も、橘さんとの顔合わせは何度も続いた。打ち合わせ、食事会、果ては社外のセミナー会場でばったり会うことまで。
(ちょっと待て、何なんだこの偶然。映画かよ。これは運命なの? それとも何かの呪い?)
そして、極め付けは、新規プロジェクトの合同チームが発結されたことだった。
「春野さん、今回の案件は橘さんと二人三脚でお願いしますね!」
上司の弾けるような笑顔。
(はあああああ!? 二人三脚!? いやいやいや、足が合わねぇ! 私とあの男が足並み揃えられるわけないだろ! まず会話が噛み合わない! 多分! たぶんね!)
合同チームの打ち合わせは、週に一度。私たちの会社の会議室で行われることになった。
そして、彼が座ったのは、私のデスクのすぐ隣の空席だった。
(おいマジかよ! 隣の席にイケメンは眼福だけど、よりにもよってあの橘!? 仕事がしにくい! 心臓に悪い! 絶対変な音出ちゃう!)
だが、仕事中の橘さんは、カフェの彼とは全くの別人だった。的確な指示、膨大な知識、そして困っているとさりげなく手を差し伸べてくれる優しさ。
(……くそっ、何だよこれ。ズルすぎだろ。仕事できるイケメンって、もう最強の生物じゃん。あれ? でもなんか、たまに口角上がるの可愛いな……って何考えてんだ私!)
ある日、私が資料作成に行き詰まっていると、彼はそっと声をかけてきた。
「春野さん、ここ、データの参照元はこっちの統計の方が適切かと。……あ、お節介でしたらすみません」
「い、いえ! 助かります! ありがとうございます!」
素直に礼を言うと、彼は少しだけ照れたように笑った。
(照れた! 照れてんじゃん! なんだ、照れ顔も可愛いのかよ! くっそ、もう私の防御力はゼロだ!)
その日から、私の内心はジェットコースターだった。
彼の完璧な仕事ぶりに感動し、些細な優しさに胸をときめかせ、そして「いやいや、冷静になれ私! あいつは最悪だったじゃん!」と自己ツッコミを繰り返す毎日。
第3章:カフェの再現、そして意外な真実
プロジェクトも佳境に入ったある日の夜。残業でクタクタになった私たちは、会社近くのカフェに立ち寄った。
「あ、あの時のカフェですね」
橘さんが、懐かしそうに窓際の席を見つめた。
(あ、覚えてたんだ……! いや、まさかこのカフェ、橘さんのお気に入りだったりする?)
偶然にも、あの日の「最悪の席」が空いていた。
「座りますか? 僕の席」
橘さんが、フッと笑いながら言った。
(え? なんかあの時のセリフの言い回しと違う! あの時の「座れば」はドスの効いた低音ボイスだったのに! 今日は優しい口調じゃん!)
私は、そっとあの時の席に座った。
「……あの、橘さん。一つだけ、ずっと気になっていたことがあるんですけど」
意を決して、尋ねた。
「私、あの日のカフェで、橘さんに『座れば』って言われたんですけど、あれって、本当にぶっきらぼうな言い方だったじゃないですか。あれは、私のこと、何か気に食わなかったからですか?」
橘さんは、少し驚いた顔をして、それから吹き出すように笑った。
(笑った! なんだこの笑顔! めちゃくちゃ可愛いんですけど!? いやいやいや、私の質問はそんなに面白かった!?)
「あの日のこと、覚えてくれてたんですね。……すみません。あの時、実はものすごく急ぎの仕事が入っていて、どうしても集中したかったんです。そこに、びしょ濡れのあなたが突然現れたから、ちょっと気が動転してしまって」
(気が動転って! いやいや、あなたの動転の仕方が怖すぎたわ! それが最悪の第一印象ってやつなのよ!)
「あと、俺の席って言ったのも、あなたがあまりにも濡れてたから、空調の風が当たらない奥の席に座ってほしい、っていう、俺なりの優しさだったんですけどね」
(……え? 優しさ? あの、まさかの「俺の席なんだけど」が、優しさ? 私の席に風が当たらないようにって? 何それ! 全然伝わってねーし! てか、何でそんな回りくどい言い方すんの!? ツンデレか! ツンデレイケメンかよ!)
彼はさらに続けた。
「それに、春野さんが来る直前まで、前の人が座っていて。その空いたばかりの席に、びしょ濡れで座るのは風邪ひくだろう、と。……俺、ちょっと人見知りなもので、気の利いた言葉が出てこなくて」
(人見知りィ!? いやいやいや、あんな完璧な仕事ぶりで人見知りって! 嘘だろ! そんなギャップ、犯罪レベルだろ!)
すべての誤解が解けた瞬間。私の心は、大雨の後の青空のように、スッキリと晴れ渡った。
そして同時に、彼への感情が、急速に「恋」へと加速していくのを自覚した。
(いやだ! 私、あの最悪のイケメンに、恋してるじゃないか!)
第4章:まさかの告白、そして初めての「好き」
プロジェクトは無事に成功。打ち上げの席で、私は泥酔した。
(あーもう、最高! プロジェクト成功! 私、頑張った! よし、あの橘イケメンにも感謝の言葉を……!)
私は、潰れた同僚の横をすり抜け、橘さんに歩み寄った。
「橘さん! 今回は本当にありがとうございました! 橘さんのおかげで、私も部長も、会社も救われました! 私、橘さんのこと……尊敬してます!」
橘さんは、少し困ったような顔をして、微笑んでいた。
(え? なんか困ってんじゃん。なんで? 尊敬してるって言ってんのに。もしかして、「尊敬」とかじゃなくて「好き」って言ってほしいタイプ!? いやいやいや、そんな直球、私には無理だわ!)
次の日。二日酔いで頭ガンガン。会社のデスクで死んでいると、橘さんからLINEが届いた。
『昨日はお疲れ様でした。一つだけ、お話ししたいことがあります。今日の夜、少しだけ時間をもらえませんか?』
(え、何? 何の話? 昨日の私の泥酔具合が引くほど酷かったとか? それとも、実はもうすぐ転職するから最後の挨拶とか? いやいや、そんなの悲しすぎるだろ! 嫌だ! 橘さんがいなくなるなんて嫌だ!)
胸が締め付けられるような、初めての感覚。
夜。会社近くのカフェ。
「単刀直入に言います」
橘さんの真剣な表情に、私の心臓は最高潮にドキドキしている。
(お願い、変な話じゃないで! 私のこと、バカにしてるとか言わないで!)
「春野さん。僕、あなたのことが好きです。初めて会った大雨の日、ずぶ濡れになりながらも一生懸命走っていたあなたの姿を見て、なぜだか目が離せませんでした。仕事に真摯に取り組む姿、全てに惹かれています。僕と、お付き合いしていただけませんか?」
(…………は? え? 今、なんて言った? 好き? 好きって言った? え、私のこと? いやいやいや、まさか。あの橘さんが? 最悪の第一印象だったあの橘さんが? 私に? 好きって!?)
混乱の極み。しかし、彼の真っ直ぐな瞳は、紛れもない「真剣さ」を物語っていた。
(どうしよう! 私も好きだ! 大好きだ! でも、いざ言われると、なんか照れくさすぎて顔が真っ赤になっちゃったんだけど!? いや、もうパニック! とりあえず、なんか言わないと! 私、人生で初めての告白を受けてるんだぞ! ちゃんと返事しないと!)
「……はい! 喜んで!」
情けない声で、私は答えていた。
顔が熱い。人生で一番熱い瞬間だった。
エピローグ:運命の雨上がり
橘さんとの交際が始まって、半年。私の日常は、完全に七色に輝き始めた。
休日、彼と手をつないで街を歩く。 初めてのデートで照れて、お互い顔を真っ赤にしながら手を繋いだことを思い出すと、今でも胸がキュンとする。
「咲。今日はどこに行きたい?」
「んー、今日は橘さんと、あのカフェに行きたいな」
あの日のカフェ。今は、笑い話になった「座れば」「俺の席なんだけど」という言葉たち。彼は、私のことを「咲」と呼んでくれる。その声が、何よりも僕を幸せにする。
あの日の豪雨は、私の人生を最悪にしたけれど、同時に最高の運命を連れてきてくれた。まさか、あんな最悪の出会いから、こんな素敵な恋が始まるなんて。 人生って、本当に何が起きるかわからない。
でも、こんなドラマみたいな偶然は、現実では滅多に起きない。むしろ、奇跡に近い。 私は運が良かっただけなのかもしれない。
(いや、運が良かったとかじゃなくて、私、ちゃんと自分のことアピールしてたし? プレゼンも頑張ったし? 橘さんのこと、ちゃんと見てたし? だから、この恋を掴めたんだ!)
待っているだけじゃなくて、自分からその「きっかけ」を掴みに行こう。だって、あなたの運命の相手も、もしかしたら、どこかであなたを待っているのかもしれないから。
「橘さん、雨上がりって、なんでこんなに綺麗なんだろうね」
「そうだね。咲と見るからじゃないかな」
青空を見上げながら、私は彼の手を強く握り返した。 新しい自分へ。 私の隣には、最高の彼がいる。
「ドラマみたいな偶然の恋」に憧れるけれど、現実はそんなに甘くない……そう思っていませんか?でも、待っているだけじゃもったいない!あなたの運命の相手も、もしかしたら、どこかであなたを待っているのかもしれません。新しい自分へ、その一歩を今から始めましょう。

