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「好き」という毒に酔った二年間。慰謝料の通知が私を「母親」に戻した

内容証明を手に取り、実家の畳の上で絶望に暮れる31歳のシングルマザー。その背後で眠る3歳の息子の存在が、犯した過ちの重さとこれからの再生を暗示している。 シングルマザーの恋愛ストーリー

不倫の恋が、一瞬で『負債』に変わる瞬間を知っていますか?

「彼は特別」「いつか一緒になれる」……そう信じていた時間は、一通の事務的な封筒によって、残酷なまでに粉砕されます。これは、31歳のシングルマザーが、甘い嘘の対価として支払った150万円と、失った2年間の記録。そして、裏切り続けていた子どもの無垢な愛に、ようやく気づくまでの再生のストーリーです。

 

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プロローグ:優しい嘘の始まり

3年前、離婚届を役所に置いてきた日のことは、霧がかかったようにぼんやりとしている。

28歳でシングルマザーになり、3歳の子ども・陽太(仮名)を連れて実家へ戻った私を待っていたのは、静まり返った夜の孤独と、「私にはもう、女としての価値はないのではないか」という底なしの不安だった。

そんな心の隙間に、滑り込んできたのが職場の直属の上司、44歳の高木(仮名)だった。

「大変だったな、無理するなよ。君の頑張りは、俺が一番よく見ているから」

その言葉は、砂漠に染み込む水のように私の心を満たした。

「妻とはもう終わっているんだ。君と出会うのが、もっと早ければよかった」

今思えば、それは不倫の典型的な口上だ。

けれど、当時の私には、それが自分を救ってくれる唯一の希望の光に見えてしまった。

第1章:ずるずると溶けていく日常

高木との関係は、気づけば2年が過ぎていた。

「いつ別れるの?」

という私の問いに、彼はいつも「子どもが中学生になるまでは」「親の介護があるから、今は慎重に動かないと」と、もっともらしい理由を並べた。

「利用されているだけじゃないか」

そう疑い始めると、彼は決まって、私が好きだと言ったブランドの口紅を贈ってきたり、高級なレストランを予約したりして、とびきりの優しさを見せる。

「愛しているのは君だけだ。信じてくれ」

その囁きに、私は「もう一度だけ信じよう」と、自分自身を騙し続けた。

実家で母に陽太を預け、夜の街へ出かける罪悪感は、高木の腕の中にいる間だけは消すことができた。

「ママ、どこ行くの?」

玄関で見送る陽太の問いかけに

「お仕事だよ、すぐ帰るね」

と嘘をつく私の唇は、いつの間にか、嘘をつくことの痛みに麻痺していた。

 

第2章:もっとも静かで、もっとも残酷な通知

その日は、ひどく静かな午後だった。

実家に届いた一通の書留。差出人は、見知らぬ弁護士事務所。

「……何これ」

震える手で封を切ると、中から現れたのは、感情の一切を排した事務的な書体で綴られた「内容証明郵便」だった。

『不貞行為に基づく慰謝料請求通知書』

そこには、私と高木が会っていた日時、ホテルに入った記録、そして――。

『慰謝料として、金150万円を請求する』

という一文が、冷徹に記されていた。

奥さんは、怒鳴り込んできもしなかった。私の職場に電話をしてくることも、SNSで晒すこともなかった。

ただ、虎視眈々と証拠を積み上げ、法という武器を持って、事務的に私を裁きに来たのだ。

感情をぶつけられたなら、謝ったり、言い訳をしたり、泥沼の話し合いに逃げ込めたかもしれない。けれど、この紙切れ一枚は、対話を明確に拒絶していた。

「あなたは、他人の家庭を壊した当事者です。言い訳は不要、期日までにこの金額を払いなさい」

そう宣告されたような、底知れぬ恐怖が全身を駆け抜けた。

 

第3章:化けの皮が剥がれた男

高木にすぐさま電話をかけたが、呼び出し音だけが虚しく響き、やがて留守番電話に切り替わった。LINEを送っても既読すらつかない。

翌日、会社で彼を捕まえた。

けれど、彼は私を見るなり眉間に皺を寄せ、すれ違いざまに囁いた。

「……下川くん、仕事の話以外なら、会議室を予約してからにしてくれ」

昨夜まで愛を囁いていた男の面影は、どこにもなかった。その瞳には、かつての優しさなど一欠片もなく、ただ「自分の平穏を脅かす邪魔者」を見る冷ややかな拒絶だけが宿っていた。

数日後の深夜。彼から届いた最後の一通のメッセージ。

『もう勘弁してくれ。不倫は遊びだって、大人ならわかってたろ? 君にも子どもがいるんだ。自分のしたことの責任は自分で取りなさい。これ以上連絡してくるなら、こちらにも考えがある』

スマホが手から滑り落ちた。

情けなくて、恥ずかしくて、吐き気がした。

私は愛されていたのではない。ただ、「扱いやすい、寂しがり屋の女」として、都合よく消費されていただけだった。

 

第4章:取り戻せない時間、届かなかった声

真っ暗な部屋で一人、後悔の波に溺れた。

不倫に溺れていた、あの2年間。

もしその時間を、陽太ともっと公園で走り回ることに使っていたら。

もしそのエネルギーを、陽太を本当に大切に想ってくれる、誠実な将来のパートナーを探すために向けていたら。

陽太が「ママ、遊ぼう」と言った時、私はスマホで高木からの連絡を待って心ここにあらずではなかったか。

「私は、何をしていたんだろう……」

150万円という金額よりも、取り返せない時間の重みが、私を責め立てた。

シングルマザーとしての恋は、自分の欠落を埋めるためのエゴであってはいけなかった。

子どもの幸せに繋がる恋、子どもに誇れる生き方。

それを選べなかった自分が、あまりにも愚かで、情けなかった。

 

第5章:母の全肯定と、陽太の口癖

翌朝。私は、母にすべてを話した。

「……ごめんなさい。慰謝料150万。私の貯金じゃ足りない。貸してほしい。死ぬ気で働くから」

頭を下げ、床に額を擦りつける私に、母は静かにお茶を淹れた。

「……正直、やっぱりねと思ったわよ。夜に出かける時のあんた、ちっとも幸せそうな顔をしてなかったから」

母の声は、怒りよりも深い慈しみに満ちていた。

「でもね、私はあんたを信じていたわ。いつか自分で気づいて、戻ってくるって。だって、あんたは陽太の母親なんだから」

母は、私の震える肩を抱きながら続けた。

「あんたがいない夜、陽太がずっと言ってたわよ。『ママは世界で一番かわいいから、世界で一番大好きなんだよ』って。寝言でも言ってたわ。あの子、あんたの嘘にうすうす気づきながら、それでもあんたが大好きで、ずっと待ってたのよ」

「ママにとっての一番が自分じゃないと感じていたのか…。ママのことは自分が一番好きって言葉にすることで安心したかったんじゃないのかなって……」

「……っ、あああ……っ!」

その瞬間、私の我慢は決壊した。

陽太の、あの真っ直ぐな瞳。泥だらけの手で私を抱きしめてくれる、小さな温もり。 私はその無垢な愛を裏切り、偽物の愛に酔いしれていた。

情けなくて、申し訳なくて、涙が止まらなかった。

 

エピローグ:再生への第一歩

母から借りたお金と、自分の貯金を合わせ、慰謝料を支払った。職場も変え、高木とは、二度と会っていない。

今の私の生活は、かつてのような甘い密会も、高価なプレゼントもない。

けれど、仕事帰りに保育園へ迎えに行き、陽太の小さな手を握って帰る夕暮れ道は、何物にも代えがたい「本物の幸せ」に満ちている。

「ママ、だいすき!」

「ママもよ、陽太。世界で一番、大好き」

恋をすることは、悪いことじゃない。

でも、次に誰かを好きになるときは、その人の隣にいる私が、陽太に胸を張って見せられるような、そんな自分でありたい。

失った時間は戻らないけれど、これからの時間は、すべて陽太のために、そして陽太が愛してくれる「本当の私」のために。

 

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