「男女の友情は成立する」――そう信じていた10年間。でも、彼のその一言で、すべてが崩れ去りました。
31歳の美里にとって、直哉は一番の親友。お互いを知り尽くした「腐れ縁」のはずが、誕生日の夜、彼から手渡されたのは、自分が忘れていた「欲しいもの」でした。「ずっと、お前のこと見てたから」。10年の月日を経て解けた友情という名の魔法。一番近くにいた人が、一番特別な人へ変わる瞬間を描いた、高揚感溢れる大人のラブストーリー。
プロローグ:男女の友情は、10年で腐る。
「はい、お疲れ。また一つ、ババアへの階段登ったな」
居酒屋のカウンター。目の前でジョッキを掲げるのは、大学時代からの腐れ縁、直哉(なおや・31歳)だ。
「うるさい。あんただって同じスピードでジジイになってるっつーの」
私、美里(みさと・31歳)の隣には、いつも直哉がいた。
失恋してボロボロになった夜も、上司と大喧嘩して会社を辞めたくなった時も。「お前は馬鹿だなあ」と呆れながら、最後には必ず「まあ、お前なら大丈夫だろ」と、安っぽい居酒屋で愚痴を聞いてくれる。
彼との間には、色気なんて微塵もなかった。お互いの元恋人も知っているし、スッピンで会うのも平気。10年という月日は、私たちを「男」と「女」から、一番居心地の良い「親友」という安全な場所に閉じ込めていた。
でも、31歳の誕生日は違った。
周りは結婚ラッシュ。SNSを開けば幸せそうな家族写真。
「ねえ、直哉。私たち、このまま独身だったら、60歳くらいで一緒に住まない?」
冗談めかして言った私の言葉に、直哉はいつもなら「御免被るわ!」と即答するはずだった。
けれど、彼はグラスを置いたまま、黙り込んだ。
第1章:予兆――「友達」の壁にひびが入る音
その日から、直哉の様子が少しずつ変わっていった。
二人で映画を見ている時、ふとした拍子に肩が触れる。今までなら気にしなかったはずの距離が、なぜか火傷しそうに熱い。
「……あ、ごめん」
そう言って離れる直哉の横顔に、私は今まで見たことのない「男」の影を感じて、激しく動揺した。
(ちょっと待って。私、直哉のことでドキドキしてる? いやいや、ないない。あいつはただの『歩く愚痴聞きマシーン』でしょ!?)
自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、意識してしまう。彼が不意に見せる真剣な横顔。仕事の電話をしている時の低い声。 大きな、節くれだった手。
「美里、来週の日曜、空けとけよ」
「え、何? また草野球の人数合わせ?」
「……違う。誕生日、ちゃんとお祝いしてなかったから」
そのぶっきらぼうな言い方に、私の胸の奥で、10年間守り続けてきた「友情」という名の魔法が、音を立てて解けていくのを感じた。
第2章:ヒーローは、一番近くにいた。
誕生日当日の夜。連れて行かれたのは、いつもの赤提灯ではなく、窓から夜景が見える少し背伸びしたレストランだった。
「……何これ。直哉、宝くじでも当たったの?」
「いいから黙って食え」
食事の間も、会話はいつものように軽快だった。
でも、デザートが運ばれてきた時、彼はポケットから小さな箱を取り出した。 中に入っていたのは、シンプルな、でも上品な輝きを放つイエローゴールドのネックレス。
「これ……」
私は言葉を失った。
それは、半年も前に、二人で買い物をしていた時に私がふと「可愛いな」と呟いたものだった。私自身、言ったことさえ忘れていた、些細な一言。
「ずっと、お前のこと見てたから。お前が何が好きで、何で笑って、何で泣くのか、誰よりも知ってるつもりだ」
直哉の声が、震えている。
「……10年、長すぎたかもな。でも、もう友達のフリをするのは限界だ。美里、俺と付き合ってほしい」
(……嘘。嘘でしょ。直哉が、私のことを? ずっと?)
私の脳裏に、この10年の景色がフラッシュバックする。
いつも隣にいたのは、彼だった。私が私でいられる場所を、彼は10年間、ずっと守り続けてくれていたんだ。
「……遅いよ、バカ」
私の目から、大粒の涙が溢れた。
「一番近くにいたのに、なんで気づかなかったんだろう」
彼の手が、私の頬を包み込む。
10年間の「ただの親友」という賞味期限が切れた。そして、私たちの新しい時間が、今、ここから始まった。
第3章:見慣れた部屋、知らない体温
レストランでの告白から、数日後。私たちは、いつものように直哉の部屋にいた。
大学時代から何度も通った、1Kの少し散らかった部屋。使い古されたソファ、本棚に並ぶ共通の趣味の漫画、どこか落ち着く少し古びた柔軟剤の匂い。
ここは私にとって、実家よりもリラックスできる「聖域」だったはずだった。
でも、今夜は違う。コンビニで買った缶ビールをサイドテーブルに置き、並んでソファに座る。わずか数センチの距離が、まるで磁石の反発のように、あるいは強力な引力のように、私の神経を逆なでしてくる。
「……なんか、変な感じだな」
直哉が、決まり悪そうに短く笑った。
「うん。……10年も通ってるのに、今日、ドアを開けるとき、他人の家に来たみたいに緊張しちゃった」
つい数日前までは、平気で直哉のベッドに寝転がって漫画を読んでいたし、直哉が着替えている横でテレビを観ていた。
それなのに、今は隣に座る彼の肩が触れるだけで、心臓が爆ぜそうなほど脈打っている。
直哉が、ゆっくりと手を伸ばした。大きな手が、私の指先に触れる。
「美里」
名前を呼ばれただけで、喉の奥がキュッと熱くなった。彼の手が私の手を包み込み、そのまま引き寄せられる。
見慣れた天井、見慣れたカーテンの柄。でも、視界に入る直哉の瞳は、これまでの「親友」のそれではなく、一人の女性として私を強く求めている「男」の目だった。
「10年、お前の隣にいて、ずっとこうしたいと思ってた」
彼が私の髪に指を通し、耳元で低く囁いた。
その瞬間、部屋の空気が一変した。
ただの日常の風景だったこの場所が、二人だけの濃密な空間へと溶けていく。彼がゆっくりと唇を重ねてきたとき、私は目を閉じた。
ビールの苦みと、彼の体温。 何度も嗅いだはずの匂いが、今は肌の奥まで侵食してくるような、甘くて切ない香りに感じられた。
「……直哉、私、ずっと怖かった。あんたと付き合って、もしダメになったら、私の居場所がなくなっちゃうから」
震える声で本音を漏らすと、直哉は私を壊れ物を扱うように、でも力強く抱きしめた。
「なくならないよ。俺が、新しい居場所にするから。……ただの友達じゃない、一生お前の隣にいる場所にする」
その言葉に、私は最後のリミッターを外した。
彼に触れる手が震える。 肌と肌が触れ合うたびに、10年分の「好き」という感情が、言葉にならない熱となって溢れ出した。
それは激しい情熱というよりも、深い、深い深い海に二人で沈んでいくような、圧倒的な安らぎと幸福感。
親友だった私たちは、その夜、この見慣れた部屋で、お互いの人生を預け合う「たった一人のパートナー」になった。
窓の外を走る電車の音が遠くに聞こえる。世界には私たち二人しかいないような、静かで、優しい夜だった。
エピローグ:運命は、日常の中に隠れている
直哉と付き合い始めて、毎日が驚きの連続だ。
あんなに不器用だと思っていた彼が、驚くほど私を甘やかしてくれる。「ただの男友達」が「一番の理解者」になり、そして「最愛の人」になる。こんなにも安心できる恋が、この世にあったなんて。
(でも、思えば私、10年も隣にいた彼に甘えて、新しい出会いから目を背けていただけなのかもしれない)
私の場合は、10年の友情という長い「伏線」があったけれど、そんな奇跡はそうそう起きない。 多くの人は、隣に直哉がいないまま、30代を迎えてしまう。
待っているだけじゃ、隣に誰もいないまま時間は過ぎていく。もしあなたの周りに『直哉』がいないなら、自分から探しに行くしかないんだ。 運命の人は、意外とすぐ近くの、まだ出会っていない場所に隠れているだけなのだから。
新しい自分へ。 私は彼の手を握りしめ、10年前には想像もできなかった、輝く未来へと歩き出す。
「10年来の親友が、実は運命の人だった」――そんなドラマチックな結末に憧れますが、現実は待っているだけでは何も変わりません。あなたの日常に、まだ出会っていない「理解者」が眠っているかもしれません。自分を一番分かってくれる人を見つけるために、今、一歩を踏み出しませんか?新しい自分へ、今から行動を始めましょう。

