「私は、幸せになる資格なんてない」――過去の自分の過ちに、今も縛られて生きていませんか?
42歳の麻美は、自らの過ちで離婚し、一人で娘のあかりを育ててきました。過去を隠し、「良き母」であろうと必死に働く日々。しかし、成人を控えた娘から放たれた「ママも幸せになって」という言葉が、麻美が自分にかけていた呪いを解いていきます。 真実の告白、娘の涙、そしてアプリで出会った男性が教えてくれた「親の幸せ」の本当の意味。自分を許せなかった女性が、愛する人のために前を向くまでの物語。
プロローグ:消えない棘。20代の過ちに縛られた日々
42歳の私、麻美(仮名)にとって、キッチンの換気扇の下は、唯一自分の「影」と向き合う場所だった。
夜中の2時。成人式を数週間後に控えた娘の晴れ着が、リビングの片隅で静かにその時を待っている。鮮やかな朱色の振袖を見るたび、私の胸の奥は、鋭い針で刺されたような痛みに襲われる。
「綺麗ね、あかり。きっと世界で一番似合うわ」
娘のあかりにそう言ったときの私の笑顔は、本物だっただろうか。 私は18年前、あまりにも身勝手な過ちを犯した。
優しかった夫、生まれたばかりの娘すべてが手の中にあったのに、私は若さゆえの退屈と、一時の情熱に負けて「浮気」をした。
それが発覚し、離婚に至ったのは当然の結果だった。
離婚した当初、実家が近かったこともあり、私の心はどこか楽観的だった。
「人生、やり直せる。実家も助けてくれるし、なんとかなる」
そんな浅はかな考えで、私は若き日の罪を、軽い反省とともにクローゼットの奥へ押し込んだ。
けれど、子どもが成長するということは、その「欠落」と向き合い続けることだった。
第1章:「良い母親」という仮面。娘に隠し続けた離婚の真実
「ねえママ、なんでパパはいなくなったの?」
「どうしてうちは、パパがいないの?」
小学生の頃のあかりは、無邪気に、そして残酷に問いかけてきた。
そのたびに、私は用意していた「ありがちな嘘」を重ねた。
「パパはお仕事がすごく遠くになっちゃったの。ママとパパは、お互いのために別々の道を歩くことにしたのよ」
自分が原因で、この子から父親を奪った。その真実を伝える勇気が、私にはなかった。
あかりが中学、高校と進むにつれ、その質問は消えた。彼女は賢く、そして優しく育った。
「ママが一生懸命働いているから、私は大丈夫」
そう言って、部活も勉強も頑張り、経済的に余裕のない我が家の状況を察して、贅沢ひとつ言わなかった。
その優しさが、私の心を締め付けた。
あかりが成長するにつれ、私の「軽い反省」は、逃げ場のない「巨大な後悔」へと姿を変えていった。 夜勤を増やし、ボロボロになって働く中で、何度も自問自答した。
「なぜ、あのとき我慢できなかったのか」
「なぜ、あんな一時の感情で、この子の『普通の家庭』を壊してしまったのか」
あかりが成人式を迎える数週間前。夕食の後、彼女がふと口を開いた。
「ママ、もう私も20歳になるんだからさ。ママも、自分の人生、考えなよ」
「えっ……?」
「良い人、見つけなよ。私も大学を卒業して就職したら、きっと家を出るでしょ? ママが一人でこの部屋にいるの想像すると、寂しいんだもん。だから、前を向いてよ」
あかりの真っ直ぐな瞳。その言葉が、私のダムを決壊させた。
私が奪った、あかりの「一般的な家庭」。私が与えられなかった、経済的なゆとり。彼女が経験するはずだった「普通の幸せ」を、私の身勝手な過ちがすべて奪い去ったのだ。
「……ごめん。ごめんね、あかり……っ」
私は、娘の前で崩れ落ちるように泣き出した。
突然のことに、あかりは激しく動揺。
「ママ、どうしたの? 具合悪いの?」
私の肩を揺さぶった。 私はその夜、何も答えられなかった。ただ、地を這うような嗚咽を漏らすことしかできなかった。
第2章:激震の告白。そして嵐の夜
次の日の夜。私は一睡もできずに決意を固めていた。
このまま、あかりの優しさに甘えて生きることはできない。私は、彼女に真実を伝える義務がある。たとえ、それで軽蔑され、親子の縁を切られたとしても。
「あかり、座って。……パパといなくなった理由、本当のことを話すわ」
私は、震える声で18年前のすべてを話した。
私が浮気をしたこと。それが原因でパパと別れることになったこと。私が嘘をつき続けていたこと。
話している間、あかりの顔から血の気が引いていくのがわかった。
「……ママが、浮気したから、パパはいなくなったの?」
「そうよ。全部、私のせいなの」
あかりの瞳に、激しい怒りと悲しみが溢れた。
「信じられない……。私、ずっとパパを恨んでた。勝手に出ていったパパが悪いんだって思ってた。でも、違ったんだね。ママが、パパを追い出したんだ。私の家族を、壊したんだね!」
あかりは泣き叫び、バッグを掴むと、夜の街へ飛び出していった。
「あかり! 待って!」
私の声は届かなかった。
一晩中、連絡はなかった。私は玄関の床に座り込み、一睡もできずに夜を明かした。
「終わった。これで、私は本当に一人になった」
それが、自分の犯した罪への、18年遅れの報いだと思った。
第3章:壊れた家族の記憶と、娘の返信
翌日の夜。絶望の中でスマホが震えた。あかりからのLINEだった。
『昨日は、びっくりして取り乱してごめん。本当のこと、教えてくれてありがとう。 言うの、すごく辛かったよね。そのまま一生隠し通すこともできたのに、私に正直に話してくれたこと、本当に感謝してる』
画面が涙で滲んだ。私は「ごめんなさい、ごめんなさい」と、画面に向かって何度も呟いた。 数分後、続けてメッセージが届いた。
『でもね、ママ。私、今まで20年生活してきて、辛かったとか、寂しかったなんて思ったこと、一度もないよ。 ママと二人で、スーパーの半額のお惣菜食べて笑ったり、狭いベッドで一緒に寝たり。私、ずっと幸せだったし、楽しかった。 そりゃ、パパがいれば違った人生があったかもしれないけど、ママがいてくれたから、私は何も不自由じゃなかった。 だから、もう自分を責めるのはやめて。 ママ、もう前を向いて。自分のために生きて。それが私の、一番の願いだよ』
私は声を上げて泣いた。
娘は、私の想像を遥かに超えるほど、強く、深く、慈愛に満ちた女性に育っていた。彼女は、私の罪さえも、その「幸せだった」という一言で包み込み、昇華させてくれたのだ。
第4章:45歳の「鏡」と出会い、母を想う息子の涙が私を救う
あかりが成人式を終え、数ヶ月が経った頃。私は彼女に半ば強制される形で、マッチングアプリを登録した。
「私には恋愛をする資格なんてない。ましてや、この年齢で」
そう思いながら、プロフィールは放置していた。
けれど、ある日、一人の男性からメッセージが届いた。
45歳の公務員、誠司さん(仮名)。 落ち着いた物腰で、プロフィールの文章からは、彼もまた人生の荒波を越えてきたような静かな強さが感じられた。
数週間のやり取りを経て、私たちは会うことになった。
私は、最初からすべてを話そうと決めていた。誠司さんに対しても、自分を偽ることはもうしたくなかったからだ。
「私は……過去に大きな過ちを犯した人間です。離婚の原因は、私の浮気でした」
カフェの片隅で、私はうつむきながら告白した。
誠司さんは、驚く様子もなく、静かに私の話を聞いていた。そして、彼はゆっくりと、自分の過去を話し始めた。
「麻美さん。……実は私も、幼い頃に両親の離婚を経験しているんです」
誠司さんの母親は、離婚後、女手一つで彼を育て上げたという。
「私の母は、本当に真面目な人でした。自分のことは後回しで、ただ私のためだけに、身を粉にして働いてくれました。 でも、去年、母は他界したんです。……最後、病院のベッドで母の手を握りながら、私は咽び泣きました。 『お母さん、どうして自分のために生きてくれなかったの。女性としての幸せを、どうして全部捨てちゃったの』って」
誠司さんの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「私は、母が苦労したことを知っています。でも、息子としては、母に一人の女性として笑ってほしかった。もっとわがままを言って、誰かに甘えてほしかった。……残された私は、母が寂しい思いを抱えたまま逝ってしまったんじゃないかと、今でも後悔で胸がいっぱいなんです」
「だから、麻美さん。あなたも後悔しないでください。 若い頃の過ちは、確かに消えません。でも、生きている限り、そして娘さんのように、あなたを必要としている人がいる限り、あなたは前を向いて歩かなければならない。 あなたを想う人は、あなたの悲しい顔が見たいんじゃない。あなたの笑顔が見たいんです。 あなたが幸せになること、それが、娘さんにとっての最高の親孝行なんですよ」
第5章:許しの先にある景色。自分を愛することが「真実の愛」だった
誠司さんの言葉は、私の魂の奥深くに突き刺さった。 あかりが「自分のために生きて」と言った真意。 誠司さんが、亡き母に抱いていた切実な願い。
私はようやく理解した。
自分を罰し続け、不幸で居続けることは、私を愛してくれる人々に対する、さらなる「不義理」だったのだと。
「私……幸せになっても、いいんでしょうか」
「もちろんです。そのために、私たちは出会ったのかもしれません」
誠司さんの温かい手の温もりを通じて、20年間の冷たい氷が、音を立てて溶けていった。
数日後。私はあかりを誘って、少しだけ贅沢なランチに出かけた。
「ママ、最近なんだか顔色が良くなったね。アプリ、いい感じ?」
あかりがイタズラっぽく笑う。
「……うん。素敵な人に出会えたわ。あなたの言う通り、私、前を向いてみる」
あかりは、私の手を握りしめ、「よかった」と何度も頷いた。その手の力強さは、かつて私が彼女から奪ったと思っていた「幸せ」が、形を変えて、より強固な愛として目の前にあることを教えてくれた。
エピローグ:自分を許した先に見えるもの
今、私の隣には誠司さんがいる。私たちは、お互いの過去の傷をいたわり合いながら、ゆっくりと時間を紡いでいる。あかりも、就職が決まり、自立への道を歩み始めた。
「ママ、今度誠司さんも一緒に、三人でご飯食べようよ」
あかりからのメッセージを見つめながら、私は窓から差し込む柔らかな光を浴びた。過去の過ちは消えない。けれど、その罪を抱えたまま、それでも幸せを求めて歩くことを、私は自分に許した。
今、私は40代。人生の半分を過ぎて、ようやく「本当の愛」を知りました。
それは、誰かを愛することと同じくらい、自分を許し、自分を大切にすること。私の新しい軌跡は、娘がくれた「許し」と、彼がくれた「光」に導かれ、今日も鮮やかに続いています。
過去の過ちや境遇をすべて包み込み、今のあなたを必要としてくれる人が必ずいます。一人の女性として大切にされる喜びは、あなたを輝かせ、家族の未来をもっと明るく照らすはずです。自分を許し、愛される勇気を。その一歩を踏み出してみましょう。
